2009/05/30

middle of nowhere






パウル・クレーという画家をご存知だろうか。
ナチス政権の前衛芸術の弾圧に苦しみ、スイスに亡命した彼は、その後も貧困や病に襲われながらも創作活動を続け、1940年他界する。

彼の作品群の中に、天使の絵のシリーズがある。
「忘れっぽい天使」、「鈴をつけた天使」、「おませな天使」、「希望に満ちた天使」。彼は天使を描き続けた。後にある専門家は「天使は常に否定されながらも生きているクレーに、いつも疑問を投げかける存在でした」と漏らしている。彼の描く天使は、我々が天使と聞いて想像する慈悲や愛、希望に満ちた天使の姿ではなく、どこか変わった天使であった。そんな彼の天使に魅せられた哲学者がヴァルター・ベンヤミンである。彼はナチスに追われて服毒自殺を遂げるが、彼はクレーの「新しい天使」を片時も離さなかったという。ベンヤミンの「歴史の天使」論が、「新しい天使」に触発されて書かれたことは有名な話だ。
クレーとベンヤミン。
不幸な時代に生きた彼らは、第二次世界大戦の終結を知らずにこの世を去る。あれから世界にアドルフ・ヒトラーの様な脅威的な指導者が現れることはない。しかし、未だにどこかで争いは続けられている。
クレーの墓石に刻まれている言葉がある。
「この世では、ついに私は理解されない。なぜならいまだ生を享けていないものたちのもとに、死者のもとに、私はいるのだから」
正に天使となった彼らは、一体どんな気持ちで今の世界を眺めているのだろう。その双眸は、暗闇を湛えたままだろうか。私たちは生を享けることが出来たのだろうか。

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